尾崎士郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
昼少し過ぎてから母の容体が急に変ってきた。妻が呼びに来たので私が慌てて下の家へおりていったときには母は敷きっぱなしになっている小さい蒲団の上に身体をえびのように曲げてしゃがみ、絶えずいきむようなうめき声を立てながら苦痛に抵抗するために下腹部を烈しくよじらせていた。何時もの発作があらわれたのだ、妻は母のうしろから軽く背中を撫でおろしながら、 「すぐ医者が来ますからね」 と言った。しかし近所の医者を呼びにいった妹はすぐに帰ってきたが医者が往診に出かけたあとで留守だった。四時にならなければ帰らないということだった。暑い中を急いで歩いてきたので妹の顔はへんに歪んで見えた。丁度一時だ。ほかの医者は町の通りまで出なければ無いし、それに複雑な病気なので新しい医者に診せる事もちょっと不安な気がするのであった。 「それじゃあね、もう一度行って四時になったらきっと来てくれるように念を押してきてくれないかね」 私は小さい声で妹に言った。妹は黙って出ていった。風通しのわるい母の室は窓があけ放しにしてあるのに熱気のために空気が淀んでいた。妹が出て行ってから私はまた少し不安になった。母のうめき声が私の疲れた神経に
尾崎士郎
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