尾崎士郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
瀧は没落の象徴である。その没落がいかに荘厳であるかということについて説こう。 私は一日天城の峻嶺を越え、帰途、山麓の雑木林の中の細径に、しめやかな落葉のにおいを踏んで浄簾の瀧の前に立った。 冷々とした水煙を頬に感じながら、私は夕暮るる大気の中を白々といろどる瀧を眺めた。私の心は幾度びとなく瀧とともに没落した。すると、ある自暴自棄な感慨が私を圧えつけた。私は眼の前の瀧の色が、微妙な、しかも急激な速さで刻々に変ってゆくのを見た。その変化が私の心に新しい浪漫主義を喚び起した。山腹をめぐる渓流はその静寂な環境の中で、ゆるやかな運命に対して一つの刺戟を求めはじめた。流れの先端は新しい方向を求めて、彼等が常に避けていた障碍物に突進していった。渓流の冒険が始った。彼等は無限にひろがる広闊な眺望に憧れはじめたのである。しかし、彼等が新しく活躍しようとしている岩のうしろはやがて深い絶壁である。渓流は岩を乗り越えた。彼等が凱歌をあげて、すべるように勾配の急な岩の間に殺到してきたとき一瞬間、渓流は彼等の運命に対して懐疑的になった。彼等自身の力でない、ある不可思議なものによって導かれているという感じを避けるこ
尾崎士郎
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