片岡義男 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
眠りから覚めて目を開くまでの時間は、ごく短い。二秒ないだろう。 目を覚ましたぼくは、自分が寝ている場所の香りにあらためて気づき、いつもの自分の場所ではないところに自分が眠っていたことを認識しなおした。 ぼくは、目を開いた。天井が見えた。見なれない天井のたたずまいに、部屋の香りはよく似合っていた。香りというよりも、匂いだろうか。ベッドに違和感があった。なれた自分のベッドではなかった。 あおむけになっていた体を横にむけつつ、ぼくは上体を起こした。ベッドの縁にすわり、両足をフロアに降ろした。板張りのフロアの感触が、足の裏に新鮮だった。 すわっているぼくの正面に、窓があった。幅のせまい何枚ものガラスのブラインドが、おたがいに平行な段になって、水平にかさなりあっていた。そのブラインドがつくる、横に細いいくつものすきまから、外が見えた。 外には、午後まだ早い時間の、明るく強い陽ざしが充満していた。冬の東京から、ほんの数時間まえ、ぼくはこの島に来た。島は、北回帰線と北緯二〇度線とのちょうど中間に位置していた。 立ちあがったぼくは、Tシャツを脱いだ。ブラインドの外の陽ざしは強くて暑そうだが、眠っている

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