片岡義男 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
カアナパリまでの飛行機はどれも満席だった。いったんどこかほかの島へいき、そこからカアナパリへの飛行機を見つけるというアイディアを、僕はこれまで何度も試みた。一度も失敗したことがない。しかし今日はカフルイまで飛ぶことにした。すでに搭乗の始まっている便に空席があった。 マウイに向けて海の上を飛びながら、カアナパリの近くの砂糖きび畑にセスナで不時着したときのことを、僕は久しぶりに思い出した。思いっきり重い曇天に抑え込まれたようなホノルル空港の端っこから離陸し、セスナにふさわしい高度で海を越えていった。二十五歳の誕生日だった。 パイロットのほかに乗客は僕を含めて三人だった。日本から赴任して五年になるという、本願寺の僧侶。口数の少ない黒人のビジネスマン。そしていまより十歳だけ若い僕。マウイの西側はすさまじい雨だった。風がその雨と競い合っていた。視界を得ることが出来る低空を飛ぶのはきわめて危険だなどと言いながら、パイロットはその低空を飛んだ。 雨は水平に飛んで来て機体を叩く、分厚い水の層だった。機体にぶつかれば音がするし、窓ガラスの外で炸裂するように散っていく様子は、具体的に観察することが出来た。

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