久保田万太郎
久保田万太郎 · 日本語
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久保田万太郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
井上さん。 ……あなたに手紙を書かうと思つてからもう半年になります。――と、藪から棒にかういつてもあなたには分らないかも知れませんが、去年の九月、あなたがほんたうに公園のみくに座へ出ることになつたとき、初日にあの「胡蝶蘭」といふ芝居を見て、早速「井上正夫に与ふるの書」をあなたに書かうとじつは思つたのでした。が、二三枚書いて、厭になり、そのまゝ途中でよしてしまつたのであります。 がその後でも、新聞に何かあなたのことが出てゐたり、みくに座の前を通つたりすると、なぜかその度に、さうだ、私は一度井上君に手紙を書かなければいけなかつたのだ、といふやうな心もちを掻立てられました。 考へてみると、一昨年の春、花月にハアゲマンの歓迎会があつたとき、かへりに松山君のところで初めてあなたにお目にかゝつた以来、大金の惜春会で一度、本郷座の楽屋で一度――私はまだあなたに二三度しか逢つてゐません。だが、私にとつては真砂座以来の深馴染、どこか銀座あたりで邂逅することでもあれば、無論私はあなたと「暫く」「暫く」位なことをいひ合ふやうな関係にあるものと、以前から固くさう思つてゐました。いまでも何うかすると、「近頃はど
久保田万太郎
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