久保田万太郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
――まど子さん、何年になつたの、今度?…… と、ぼくは、たま/\逢つたKさんの、上のはうのお嬢さんに、何んの気なしに訊いた。 ――来年、卒業です。 と、まど子さんは、ニッコリ、口もとをほころばした。 ――えッ、来年、卒業?…… ぼくは、おもはず大きな声をだして、 ――ほんと、まど子さん?…… と、改めて、まど子さんの顔をみた。 ――えゝ。 まど子さんは、もう一度、ニッコリした。 ――へえ、それァ…… ぼくは、おもはず今度は、溜息を……自分だけにわかる溜息をついた。……のは、嘗て、まど子さんの慶応義塾の大学の入学試験をうけるときの心配と、そして、首尾よく合格したときの喜びの幾分とを、まど子さん、及び、まど子さんのお母ァさんとゝもにわけ合つたぼくだからである。……お父さんのKさんは、ちやうど、そのとき、フランスへ行つてゐた。……そして、それが、そのまど子さんの返事を聞くまで、ついまだ、昨日の出来事のやうにしか、ぼくには思へなかつたのである…… ――驚いたなァ、それァ…… いつ、そんな……いゝえ、いつの間に、そんな、三年も五年もの年月がすぎたのだらう?……その間で、一たい、ぼくは、何をしたと
久保田万太郎
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