谷崎潤一郎
谷崎潤一郎 · 日本語
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谷崎潤一郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
何でも十二月の末の、とある夕暮の事だった。 晴れるとも曇るとも思案の付かない空が下界を蔽い、本郷一帯の高台を吹き廻る風はヒューヒュー鳴って、大学前の大通りを通る程の物が、カサカサと乾涸らびた微かな音を立てゝ居た。 此の辺の道路は雨が降ると溝泥になる癖に、此の日は堅い冷めたい鉄板の如き地肌を寒風に曝して、其の上へ叩き付けられる砂塵が、鼠花火のように二三町渦を巻いて走った。往来の人は口を噤んで自分自分の足の端を視凝めながら、専念に歩く事へ気を奪われて居た。正門と赤門と二つの口から大学生がぼろ/\出て来て其の中へ交った。其れも小学校や中学校の生徒のように多勢景気よく練って来るのではない。大概は一人ずつ、稀には二三人組み合って、洋服の者は外套の隠嚢に両手を突っ込み、襟に頤を埋めてスタスタ行く。和服の者は懐中へ筆記帳を四五冊無理やりに拈じ込み、右の手の人差指一本だけ袖口からちょいと出して、それへインキ壺を引っ懸けて行く。どれも、これも、暗い顔をして俯向いて歩く所は一角の哲学者めいて居るが、何も文科の生徒ばかりではない。こう云う天気に黄昏の街を歩くと、大概な人の顔は哲学者面になって居る。その哲学者
谷崎潤一郎
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