野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「永い間こんな稼業をしているが、変死人を見るのはつくづく厭だな」 捕物の名人銭形の平次は、口癖のようにこう言っておりました。血みどろの死体をいじり廻すのを商売冥利と考えるためには、平次の神経は少し繊細に過ぎたのです。 それが一番凄惨な死体と逃れようもなく顔を合せることになったのですから、全くやり切れません。 「ガラッ八、手前は大変なところへ、俺を引張って来やがったな」 「縄張違いは承知の上ですが、布袋屋の旦那が、石原の親分じゃ心もとないから、銭形のに見て貰ってくれって言いますぜ」 「つまらねえお節介だ」 舌鼓を一つ、それでも振りもぎって帰ることもならず、柳橋の側に繋いだ屋形船の簾を分けました。中は血の海。 子分のガラッ八が差出した提灯の覚束ない明りにすかして見ると、若い芸妓が一人、銀簪を深々と右の眼に突っ立てられて、仰け様に死んでいたのです。 「あッ」 死体嫌いの平次は思わず顔を反けました。若くも美しくもある様子ですが、半面血潮に染んで、その物凄さというものはありません。 「これは酷い」 そのうちに平次は職業意識を回復して、一歩女の死体に近づきました。 紅の裳を蹴返して踏みはだけた足を
野村胡堂
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