野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「ガラッ八、俺をどこへ伴れて行くつもりなんだい」 「まア、黙って蹤いてお出でなせい。決して親分が後悔するようなものは、お目に掛けないから――」 「思し召は有難いが、お前の案内じゃ、不気味で仕様がねえ。また丹波篠山で生捕りましたる、八尺の大鼬なんかじゃあるまいネ」 捕物の名人銭形の平次と、その子分の八五郎、野暮用で亀井戸へ行った帰り、東両国の見世物小屋へ入ったのは、初夏の陽も、漸く蔭を作りかけた申刻(四時)近い刻限でした。 ガラッ八が案内したのは、讃州志度の海女の見世物、龍王の明珠を取った、王朝時代の伝説にかたどり、水中に芸をさせるのが当って、その頃江戸の評判になった興行物の一つでした。 小屋は筵張りの全く間に合わせの代物、泥絵の具で存分に刺戟的に描いた、水中に悪龍と闘う美女の絵を看板に掲げ、その下の二つの木戸口には、塩辛声の大年増と、二十五六の巌丈な男が、左右に分れて客を呼んでおります。年増女はいかにも達弁にまくし立てますが、男の方は至って無口で――もっとも、気のきかないせいもあったでしょう、木戸札を鳴らして、無暗に「入らっしゃい、入らっしゃい、サア、今がちょうどいいところ――」と言う
野村胡堂
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