野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、面白い話がありますぜ」 ガラッ八の八五郎、銭形平次親分の家へ呶鳴り込みました。 「相変らず騒々しいな、横町の万年娘が、駆落したって話なら知っているよ」 銭形の平次は、恋女房のお静に顔を当らせながら、満身に秋の陽を浴びて、うつらうつらとやっているところだったのです。 「へッ、そんなつまらない話じゃねえ。――ところでお静さん、――いや姐御って言うんだっけ――、親分の顔を当るのはよいが、右から左からいい男っ振りを眺めてばかりいちゃ、剃り上げないうちに、後から後から生揃って来ますぜ、へッへッへッ」 「まア、何という口の悪い八五郎さんだろう」 お静は真っ赧になって俯向きました。赤い手絡、赤い襷、白い二の腕を覗かせて、剃刀の扱いようも思いの外器用そうです。 「八、からかっちゃいけねえ。そうでなくてせえ、危なっかしくて、冷や冷やしているんだ」 「まア」 とお静。 「先刻も、止せばいいのに自分で襟を当って、少し剃刀を滑らしたんだ」 「自分の粗相にしても、姐御の頸筋へ傷を付けるのは虐たらしいねえ」 「その血染めの剃刀で俺の髭を当っているんだから、一つ間違って手が滑ると夫婦心中だ、ハッハッ、ハッ」
野村胡堂
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