野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「錢形の親分さん、お助けを願ひます」 柳原土手、子分の八五郎と二人、無駄を言ひながら家路を急ぐ平次の袖へ、いきなり飛付いた者があります。 「何だ/\」 後から差覗くガラツ八。 「何處か斬られなかつたでせうか、いきなり後ろからバサリとやられましたが――」 遠灯に透せば、二十七八の、藝人とも、若い宗匠とも見える一風變つた人物。後向になると、絽の羽織は肩胛骨のあたりから、帶の結びつ玉のあたりへかけて、眞一文字に斬り下げられ、大きく開いた口の中から、これも少し裂かれた單衣が見えるのでした。 「大丈夫、紙一枚といふところで助かつたよ。ひどいことをする奴があるものだね。辻斬にしちや不手際だが――」 平次はさすがに、斬口の曲つた工合から、刄先の狂ひを見て取りました。 「辻斬なら仔細は御座いませんが、――この間から、時々こんなことがありますので、油斷がなりません」 男は眞夏の夜のねつとり汗ばむ陽氣にも拘はらず、ぞつとした樣子で肩を顫はせました。町の灯の方へ向くと、青白い弱々しい顏立ちで、色戀の沙汰でもなければ、命を狙はれさうな柄ではありません。 「そいつは物騷だ。命を狙はれちや、いゝ心持のものぢやある
野村胡堂
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