野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、手紙が參りました」 「どれ/\、これは良い手だ。が、餘程急いだと見える」 錢形平次は封を切つて讀み下しました。初冬の夕陽が這ひ寄る縁側、今までガラツ八の八五郎を相手に、將棋の詰手を考へて居る――と言つた、泰平無事な日だつたのです。 「使の者が待つて居りますが――」 ガラツ八は膝つ小僧を隱し乍ら、感に堪へて居る平次を促しました。 「待てよ、手紙の文面は、――至急相談したいことがあるから、此使の者と一緒に來て貰ひたいと言ふのだ。場所は柳橋、名前はない。――言葉は丁寧だが、四角几帳面な文句の樣子では、間違ひもなく武家だ、――使ひの者はどんな男だ」 「女で」 「それぢやお茶屋の女中だらう、――手前行つて見な」 「あつしが行くんですかい」 「お茶屋から岡つ引を呼び付けるやうな奴のところへは行きたくねえ、第一この左樣然らばの文句が氣に入らねえよ」 平次は日頃にもなく妙なことを言ひ出しました。 「あつしも嫌ひで、――お茶屋から岡つ引を呼び付けるやうな野郎は」 ガラツ八は内懷から頤の下へ手を出して、剃り立ての青鬚の跡を、逆樣に撫で上げました。 「馬鹿野郎」 「へツ」 「人の眞似なんかしあがつて
野村胡堂
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