野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、とうとう神田へ入って来ましたぜ」 「何が? 風邪の神かい」 その頃は江戸中に悪い風邪が流行って、十二月頃から、夜分の人出がめっきり少なくなったと言われておりました。 「いえ、風は風だが、あの『疾風』と言われている強盗で……」 「どこへ入ったんだ」 「神田も神田、新石町の大黒屋で」 「ヘエ、そいつは近過ぎて知らなかったよ。いつだい」 「昨夜――と言っても暁方だったそうで、盗られた金は三百両だが、後の祟りが恐ろしいから、店の者一統に口留めして、おくびにも出さないことにしたんで」 「手前はそのおくびをどこで聞いた」 「朝湯へ行くと、湯を貰いに来た大黒屋の下女が、これは極々の内証話だから、誰にも言わないように――って、ペラペラ喋っていましたよ。口留めされるとかえってウズウズして、言わずにいられないんだね、もっとも、泥棒の汚した板敷や畳を掃除するのに、湯を沸かす暇がないという言い訳代りに、湯屋のお神さんを相手に、内証話を一席やった積りだろうが」 こんな事の聞込みにかけては、ガラッ八の八五郎、天才的な早耳でした。 「それは知らなかった、――外の事なら知らん顔もするが、『疾風』がこの辺へ入込
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