野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、――ちょいと、八五郎親分」 ガラッ八は背筋を擽られるような心持で振り返りました。菊日和の狸穴から、榎坂へ抜けようというところを、後ろからこう艶めかしく呼止められたのです。 「どこだ」 グルリと一と廻り、視線で描いた大きい弧がツイ鼻の先の花色暖簾の隙間を見落していたのです。 「ここよ、ちょいと、親分」 「なんだ、――俺を鴨だと思っているのか」 ガラッ八は背を向けました。茶店の姐さんが、客の無い怠屈さに、顔見知りの自分へ声を掛けたのだろうと思ったのです。 「あら、私はここの姐さんじゃありませんよ。神田から親分の後を跟けて来て、御用の済むのを待っていたんじゃありませんか。ちょいと、お顔を貸して下さいな、内々のお願いですから」 肩で暖簾を揉んで、輪郭が霞むような真っ白な顔を出したのは、二十一、二の女、素人とも玄人ともつかぬ、抜群の艶めかしさを発散させます。 「御免を蒙ろう、俺は忙しい、――御用繁多だ」 ガラッ八は独り者の癖に、若い女には妙に突っ剣呑でした。いやどうかしたら、独り者だからかえって若い女には無愛想だったのかも知れず、若い女に無愛想だから、いつまで経っても独り者だったのかもわ
野村胡堂
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