野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、松が取れたばかりのところへ、こんな話を持込んじゃ気の毒だが、玉屋にとっては、この上もない大難、――聴いてやっちゃ下さるまいか」 町人ながら諸大名の御用達を勤め、苗字帯刀まで許されている玉屋金兵衛は、五十がらみの分別顔を心持翳らせてこう切出しました。 「御用聞には盆も正月もありゃしません。その大難というは一体何で?」 銭形の平次は膝を進めます。往来にはまだ追羽子の音も、凧の唸りも聞える正月十三日、よく晴れた日の朝のうちのことです。 「外じゃない、さる大々名から、新年の大香合せに使うために拝借した蝉丸の香炉、至って小さいものだが、これが稀代の名器で、翡翠のような美しい青磁だ。それが、昨夜私の家の奥座敷から紛失した。――たった香炉一つと言ってしまえばそれまでだが、一国一城にも代え難いと言われた天下の名器で、公儀へ御書き上げの品でもあり、紛失とわかれば、内々で御貸下げ下すった、御隠居様の御迷惑は一と通りでない。私はまず腹でも切らなければ済まぬところだ」 「…………」 平次は黙って聴いておりますが、玉屋金兵衛の困惑は容易のものでないのはよく解ります。 「親分は、お上の御用を勤める身体だ。
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