野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分」 「何だ、八」 「腕が鳴るね」 ガラッ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の銭形平次を仰ぎました。 初夏の陽を除け除け、とぐろを巻いた縁側から、これも所在なく吐月峰ばかり叩いている平次に、一とかど言い当てたつもりで声を掛けたのでした。 「腕の鳴る面かよ、馬鹿野郎、近頃お湿りがないから、喉が鳴るんだろう」 「違えねえ」 平掌で額をピシャリ。この二三日スランプに陥っている平次から、この痛快な馬鹿野郎を喰らわせられるのが、ガラッ八にはたまらない嬉しさの様子です。 「八、あれを聞くがいい」 「何ですえ、親分」 「誰か来たようだ、とんだ面白い仕事かも知れないよ」 「…………」 「家の前を往ったり来たりしているだろう。入ろうか入るまいか、先刻から迷っている様子だ、――女の跫音だね」 平次の言葉が終らぬうちに格子が開いて、お静が取次に出た様子、若い女の低いが弾み切った声が聞えます。やがて通されたのは、二十歳そこそこの愛くるしい娘、何やら悩みに打ちひしがれて、部屋の隅に小さく俯向きました。 色白の頬が少し痙攣して、豊かな肩が揺れると、恐る恐る顔をあげて、相対した江戸一番の御用聞――銭形平次の
野村胡堂
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