野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「あツ危ねえ」 錢形の平次は辛くも間に合ひました。夜櫻見物の歸りも絶えた、兩國橋の中ほど、若い二人の袂を取つて引戻したのは、本當に精一杯の仕事だつたのです。 「どうぞお見逃しを願ひます」 「どつこい待ちな、――そんな身投げの極り文句なんか、素直に聞いちや居られねえ」 「死ななきやならないわけがございます。どうぞ、親分」 爭ふ二人、平次は叩きのめすやうに、橋の欄干に押付けました。 「頼むから靜かにしてくれ。俺は横山町から驅け付けたんだ。息が切れて叶はねえ、――意見をするのが面倒臭くなると、二人を縛つて欄干に晒し物にする氣になるかも知れないぜ」 「親分さん」 「解つたよ。三百八十兩の大金を巾着切にやられて、主人への申譯、言ひ交した女と一緒に、ドブンとやらかさうといふ筋だらう」 「えツ」 「お前は、増屋の養子徳之助、――此方はお富といふんだつてね」 「さう言ふ親分さんは?」 「神田の平次だ」 「あツ、錢形の――」 徳之助とお富は、死ぬ筈の身を忘れて、町の家並に傾く櫻月の薄明りの中に、江戸第一番の御用聞と言はれた平次の顏を見直しました。 「横山町の店からの使ひで飛んで行つて見ると、――一度店へ
野村胡堂
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