野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、小柳町の伊丹屋の若旦那が来ましたぜ、何か大変な事があるんですって」 「恐ろしく早いじゃないか、待たしておけ」 「ヘエ――」 平次は八五郎を追いやるように、ガブガブと嗽をしました。 美しい朝です。鼻の先がつかえる狭い路地の中へも、金粉を撒き散らしたような光が一パイに射して、初夏の爽やかさが、袖にも襟にも香りそう。耳を澄ますと明神の森のあたりで、小鳥が朝の営みにいそしむ囀りが聞えます。 こんな快適な朝――起き抜けの平次を待ち構えているのは、一体どんな仕事でしょう。血腥い事件の予感に、平次はちょっと憂鬱になりましたが、すぐ気を変えて、ぞんざいに顔を洗うと、鬢を撫で付けながら家へ入って行きました。 「親分、た、大変なことになりました」 伊丹屋の大身代を継いだばかり、まだ若旦那で通っている駒次郎は、平次の顔を見ると、上がり框から起ち上がりました。少し華奢な、背の高い男です。 「駒次郎さんかい、――どうなすったえ?」 万両分限の地主の子に生れた駒次郎は、この春伊丹屋の主人になって、尤もらしい尾鰭を加えたにしても、平次の眼にはまだ道楽者の若旦那でしかなかったのです。 「皆んな、隠せるものなら
野村胡堂
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