野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、お願ひだ。ちよいとお御輿を上げて下さい」 八五郎のガラツ八は額際に平掌を泳がせ乍ら入つて來ました。 「何を拜んでゐるんだ。お御輿は明神樣のお祭りが來なきや上らねえよ」 錢形の平次は驚く色もありません。裏長屋の狹い庭越しに、梅から櫻へ移り行く春の風物を眺めて、唯斯うぼんやりと日を暮してゐる、この頃の平次だつたのです。 「三河町の殺しの現場へ行つて見ましたがね、何しろ若い女が四人も五人も居て、銘々勝手なことを言ふから、何時までせゝつて居たつて、眼鼻は明きませんよ」 ガラツ八は頸筋を掻いたり、顏中をブルブルンと撫で廻したり、仕方澤山に探索の容易ならぬことを呑込ませようとするのです。 「八は男つ振りが良過ぎるからだよ。岡つ引は醜男に限るつてね」 「さうでもありませんがね。何しろ右から左から、胸倉まで掴んであつしを物蔭へ引張つて行つて自分の都合の宜いことばかり言ふんでせう」 「宜い加減にしないかよ、馬鹿だなア」 「へエ――」 「惚氣なんか聽いてるんぢやない。サア、案内しな」 「へエ――」 「折角お前の手柄にさせようと思つてやつたのに、仕樣のない奴ぢやないか」 平次は小言をいひ乍らも、手早
野村胡堂
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