野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
錢形平次が門口の雪をせつせと拂つてゐると、犬つころのやうに雪を蹴上げて飛んで來たのは、ガラツ八の八五郎でした。 「親分、お早やう」 「何んだ、八か。大層あわててゐるぢやないか」 「あわてるわけぢやないが、初雪が五寸も積つちや、ヂツとしてゐる氣になりませんよ。雪見と洒落やうぢやありませんか」 さう言ふ八五郎は、頬冠りに薄寒さうな擬ひ唐棧の袷、尻を高々と端折つて、高い足駄を踏み鳴らしてをりました。雪はすつかり霽れて、一天の紺碧、少し高くなつた冬の朝陽が、眞つ白な屋根の波をキラキラと照らす風情は、寒さを氣にしなければ、全く飛出さずにはゐられない朝でした。 「大層風流なことを言ふが、小遣でもふんだんにあるのか」 「その方は相變らずなんで」 「心細い野郎だな。空ツ尻で顫へに行かうなんて、よくねえ量見だぞ」 「へツへツ」 「いやな笑ひやうだな、雪見に行かうてエ場所はどこだ」 「山谷ですよ」 「山谷?」 「山谷の東禪寺横で」 「向島とか、湯島とか、明神樣の境内なら解つてゐるが、墓と寺だらけな山谷へ雪を見に行く奴はあるめえ、――そんなことを言つて、又誘ひ出す氣なんだらう」 「圖星ツ、さすがに錢形の親分
野村胡堂
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