野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、あれを御存じですかえ」 ガラッ八の八五郎はいきなり飛び込んで来ると、きっかけも脈絡もなく、こんなことを言うのでした。 「あ、知ってるとも。八五郎が近ごろ両国の水茶屋に入り浸って、お茶ばかり飲んで腹を下していることまで見通しだよ。どうだ驚いただろう」 銭形の平次はこの秘蔵の子分が、眼を白黒するのを、面白そうに眺めながら、こんな人の悪いことを言うのです。 「親分の前だが、それが大変なんで」 「八五郎の嫁になりたいという茶汲女でもあるのかい。劫を経たのはいけないよ」 「そんな間抜けな話じゃありませんよ」 「恐ろしく突き詰めた顔をするじゃないか。悪いことは言わない、心中や駆落だけは止してくれ。叔母さんが心配するぜ」 いっこう相手にならない平次の前に、八五郎はでっかい財布の中から半紙一枚に仮名で書き流した手紙を出して見せるのでした。 「これを読んで下さいよ、親分」 「なんだ」 ようやく真剣になった平次、煙管を投り出すと、紙の皺を延ばしながらざッと読み下しました。 文字は金釘流、文意もしどろもどろですが大骨折りで弁慶読みにすると、 「――近ごろ本所元町の越前屋半兵衛のところに、いろいろ不思
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