野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、今日は、良い陽氣ですぜ。家の中に引つ込んで、煙草の煙の曲藝をやつてゐるのは勿體ないぢやありませんか」 ガラツ八の八五郎は、入つて來るなり、敷居際に突つ立つて、斯んな事を言ふのです。 「大きなお世話だよ、どうせお前のやうに、空つ尻のくせに、花見に出かけるほどの膽力はないからだよ。――陽氣が良いから、日向に引つくり返つて居ても、トロリと醉ひ心地になるぜ」 錢形の平次は、斯う言つた無精者でした。尤も縁側に寢そべつて、街の遠音を夢心地に聽き乍ら、白雲の行きかひを、庇の間から眺めて居るのも滿更惡くない陽氣です。 「天道樣に照らされて、ボーツと醉心地になるなんざ智慧がなさ過ぎますね。今日のやうな日には、何處へ行つても花さへありや杯の雨が降りますよ」 「呆れた野郎だ、人の酒で花見をする氣でゐやがる」 「上野は筋の良い客が居るから、偶には小袖幕から呼込まれるやうな都合にならないものでもあるまいと思つてやつて來ると――」 「馬鹿野郎、序幕でお姫樣に見染められる氣でゐやがる」 「それくらゐ押が強くないと、結構な花見は出來ませんよ、――ところで、その氣で上野へ出かけると、山下で大變なものに出逢はした
野村胡堂
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