野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、四谷忍町の小松屋といふのを御存じですか」 「聞いたことがあるやうだな――山の手では分限のうちに數へられてゐる地主か何んかだらう」 錢形平次が狹い庭に下りて、道樂の植木の世話を燒いて居ると、低い木戸の上に顎をのつけるやうに、ガラツ八の八五郎が聲を掛けるのでした。 「その小松屋の若旦那の重三郎さんを案内して來ましたよ。親分にお目にかゝつて、お願ひ申上げたいことがあるんですつて」 さう言へばガラツ八の後ろに、大町人の若旦那と言つた若い男が、ひどく脅えた樣子で、ヒヨイヒヨイとお辭儀をして居るのです。 「お客なら大玄關から――と言ひ度いが、相變らずお靜が日向を追つかけて歩くから、あそこは張板で塞がつて居るだらう。此方へ通すが宜い」 「へツ、そこは端近、いざま――ずつと來たね。若旦那、遠慮することはない。ズイと通つて下さいよ」 八五郎の剽輕な調子に誘はれるやうに、身扮の凝つた、色の淺黒い、キリリとした若いのが、少し卑屈な態度で、恐る/\入つて來ました。精々二十歳そこ/\でせうか、まだ世馴れない樣子のうちに、妙に野趣を帶びた、荒々しさのある人柄です。 「あつしは平次だが――小松屋の若旦那が、
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