野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「あれを聽いたでせうね、親分」 ガラツ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで來たのです。 「聽いたよ、新造に達引かしちやよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉を見に行つて、財布を掏られて、伴の女達にお茶屋の拂ひまでして貰つたといふ話だらう」 錢形平次は立て續けに煙管を叩いて、ニヤリニヤリとして居るのです。 「そんなつまらねえ話ぢやありませんよ。親分も聽いたでせう、近頃大騷ぎになつて居る、土手の髷切り」 「さうだつてね、新吉原の土手で、遊びに行く武家がポンポン髷を切られるんだつてね、――大きい聲ぢや言へねえが、『人は武士なぜ傾城に嫌がられ』とはよく言つたものさ。突き袖かなんかしやがつて、武士たる者が不用心ななりで女郎買なんかに行くから、命から二番目の大髻を切られるのさ。八五郎が財布を掏られるのと違つて、こいつは内々溜飮を下げて居る奴が多いぜ。なア八」 町人平次――お上の御用を勤めてゐるには相違ありませんが、武士の髷切り騷ぎには、内々揉手をして喜んで居るのでした。 その頃江戸中の評判になつた、この髷切りの惡戯は、一ヶ月ほど前から始まつたことですが、月のない眞つ暗な晩に限つて、新
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