野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「わツ、親分」 まだ明けきらぬ路地を、鐵砲玉のやうに飛んで來たガラツ八の八五郎。錢形平次の家の格子戸へ、身體ごと拳骨を叩き付けて、お臍のあたりが破けでもしたやうな、變な聲を出してわめき散らすのです。 「何といふ聲を出すんだ、朝つぱらから。御近所の衆は番毎膽を冷やすぜ」 平次は口小言をいひ乍らも、事態重大と見たか、寢卷の前を掻き合せて、春の朝靄の中へ、眠り足らぬ顏を出すのでした。 「大變なんだ、親分。早く、早く支度をして下さい。あつしはもう腹が立つて、腹が立つて」 「腹が立つて飛び込んで來たのか。こんなに早く叩き起されて、お前の腹の始末までしなきやならないのかえ――俺は斯う見えても滅法寢起きが惡いんだぜ」 平次はさう言ひ乍らも、八五郎の取亂した姿を眺めてニヤリニヤリ笑つて居るのです。 「親分の寢起きなんかに構つちや居られませんよ。何しろ神田から下谷一圓の御用聞が狩出されて、錢形の親分には内密で、夜つぴて網を張つたんだ」 「何んの網だ、鰯網か鰤網か」 「左傷の五右衞門が、今晩あたりは、何處かへ出るに違ひねえといふ見込で、下つ引交りに三十八人と出ましたよ。いつも錢形の親分にばかり手柄を持つて
野村胡堂
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