野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「八、丁度宜いところだ。實は今お前を呼びにやらうかと思つてゐたところよ」 「へエ、何んか御馳走でもありますかえ」 錢形平次は、斯んな調子で八五郎を迎へました。この頃の暑さで、江戸の惡者共も大怠業をきめて居るらしく、珍らしく御用の方も閑だつたのです。 「呆れた野郎だ。御馳走ならお前を呼ぶものか、一人で喰ふよ」 「へエ、御親切なことで」 「今のは小言だよ、――昨日向柳原のお前の叔母さんが來て、お靜を相手に半日口説いて行つたよ」 「有難いことで」 「たまには年寄の言ふことも聽くものだよ。叔母さんは苦勞人だ、なか/\面白いことを言つたぜ」 「へエ?」 「甥の八五郎も三十に近いから、一日も早く嫁を持たせて、冥途の姉にも安心させ度いと思ふが、あの樣子では嫁に來てくれ手もあるまい。何とか世間並のたしなみだけでも身につけるやうに、折々は叱つてやつて下さいと――ね」 「へエ」 「聞けばお前は、晝の着物のまゝで、床にもぐり込んだり、褌で顏を拭いたりする相ぢやないか」 「叔母さんはそんな事を言ひましたか」 「あんな躾はした覺えはないが、色氣がないにしても困つたものだ――と大こぼしよ」 「色氣の方は滿々として
野村胡堂
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