野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、親分が一番憎いのは何んとか言ひましたネ」 ガラツ八の八五郎、入つて來るといきなりお先煙草の烟管を引寄せて、斯んな途徹もないことを言ふのです。 初秋の陽足は疊の目を這ひ上がつて、朝乍ら汗ばむやうな端居に、平次は番茶の香氣をいつくしみ乍ら、突拍子もない八五郎の挨拶を受けたのでした。 「俺が憎いと思ふのは――年中お先煙草を狙ふ奴と、鼻糞を掘つて八方へ飛ばす奴と、埃だらけな足で人の家へ入る奴と――それから」 「もう澤山。わかりましたよ、親分」 「遠慮するなよ、もう少し並べさしてくれ。こんな折でもなきや俺とお前の中でも思ひきつたことは言へねえ」 「驚いたね」 「毎々驚くのは俺の方だよ。庭へ唾を吐くのも憎いし、髷の刷毛先を、無暗に左へ曲げるんだつて、可愛らしい好みぢやないぜ」 平次は八五郎の面喰つた顏を眺めながら、ニヤリニヤリと讀み上げるのです。 「そんな事で勘辨しておくんなさい。あつしの棚おろしはいづれ暇で/\仕樣のない時のこととして――」 「今日は暇で/\仕樣がないんだよ。でも、俺が數へるのを、一々と自分のことと氣が付くところを見ると、八五郎も滿更ぢやねエ」 「冗談ぢやありませんよ、―
野村胡堂
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