野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、良い天氣ですぜ。チラホラ梅は咲いてゐるし、お小遣はフンダンにあるし――」 「嘘をつきやがれ。梅の咲いたのは俺だつて知つてゐるが、八五郎の財布にお小遣がフンダンにあるわけはないぢやないか」 錢形平次と子分の八五郎は相變らずの調子で始めました。 「なアに、お小遣のフンダンにあるのは親分の財布で――」 「あれ、人の財布の中まで讀みやがつて、氣味の惡い野郎だな」 「そこで、ちよいと御輿をあげてくれませんか。すぐ其處なんだが」 平次の出不精を知り盡してゐる八五郎は、ツイ餘計な細工までするのでした。 「いやに落着いてゐるやうだが、お前はもう今朝三里も歩いてゐるだらう――額口に汗を掻いて足から裾は埃だらけぢやないか。良い若い者が、長刀になつた草履なんか履いて行くのは、止しちやどうだ」 「叶はねえなア、親分に逢つちや、――でも埃は草履のせゐで、道はそんなに遠くはありませんよ」 「何處だ?」 「小石川表町、傳通院の前。山の手一番と言はれた呉服屋、鳴海屋の娘が殺されたらしいんで、富坂の周吉親分からの使ひで、朝のうちに一と走り行つて見て來ましたよ」 「それで?」 「死んだのは鳴海屋の娘でお町といふ十
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