野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、お早うございます」 「あれ、大層行儀がよくなつたぢやないか、八」 錢形平次は膽をつぶしました。彌造も拔かずに、敷居際に突つ立つて『お早う』などと顎をしやくる八五郎が、今日は何を考へたか、入口から斯う、世間並の挨拶をして入つて來たのです。 二月もあと一、二日、彼方此方の花がふくらんだとやらで、江戸の人氣はほろ醉ひ機嫌といふところでした。 「でせう、親分。行儀がよくなつて、親孝行でもすると世間樣の扱ひが違つて來るから不思議で――」 「待つてくれ。親孝行をし度いと言つても、お前には親がないぢやないか、――たつた一人のお袋は、お前のことばかり心配して、五年前に死んだ筈だが」 「親孝行は隣り町の有太郎といふ植木職人の方で――あつしはお行儀の口で行くつもりですよ」 さう言ひながら八五郎は、キチンと坐り込んで、貧乏搖ぎをして居ります。 「大層なことになるものだな。お前がしびれをきらして居るのを見ると、俺も寢そべつて話を聽いちや、相濟まないやうだな。ところで、どこでそんな結構なことを教はつて來たんだ」 「近所へ越して來たんですよ、――その親孝行とお行儀の先生が」 「親孝行指南所と言つた看板でも
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