野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、近頃江戸にも、變なお宗旨があるんですつてね」 ガラツ八の八五郎、何を嗅ぎ出したか、小鼻を膨らませて、庭口からノソリと入つて來ました。 五月の末のある朝、明神樣の森も申分なく繁り合つて、平次の家までが、緑の庭に淀んだやうな日和です。庭先に並べた草花の鉢の芽を、後生大事にいつくしんでゐるところへ、この足に眼のない男が木戸を跳ね飛ばすやうに闖入して來たのでした。 「頼むから足許に氣をつけてくれ。この間もお前に朝顏の鉢を穿かれて、二三杯滅茶々々にされたぢやないか」 平次は氣のない腰を伸ばしました。外に道樂はないにしても、三文植木や、草花の鉢に夢中になる親分の趣味が、八五郎にはどうしても呑み込めません。 尤も、拳固を七三に構へたやうな、間の拔けた彌造を拵へて、メロデーのない鼻唄か何んかを唸りながら、江戸中を驅け廻つて居るからこそ、時々は素晴らしいニユースを嗅ぎ出して來て、平次に溜飮を下げさせてくれる八五郎でもありました。 「何んと言つてもお宗旨ですね。信心でもなきや、この不景氣に二千五百兩といふ金は寄りませんや。ね、さうぢやありませんか親分」 「お宗旨がどうしたんだ。俺のところは、死んだ
野村胡堂
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