野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「八、大變なことがあるさうぢやないか」 江戸開府以來と言はれた、捕物の名人錢形平次は、粉煙草の煙りを輪に吹きながら、いとも寛々たる態度で、飛び込んで來た子分の八五郎に、かう浴びせるのでした。 あわて者の八五郎、一名ガラツ八は、平次のためには『見る眼嗅ぐ鼻』で、その天稟の勘を働かせて、江戸中のニユースを嗅ぎ出して持つて來るのですが、生憎なことに今日は恐ろしい不漁で、猫の子がお産をしたほどの事件もなく、でつかい彌造を二つ陰氣に拵へて、日本一の張り合ひのない顏を、兎にも角にも親分のところへ持つて來たのでした。 その鼻面を叩くやうに、『大變なこと』といふのを浴びせられて、八五郎さすがに面喰ひました。まさにお株を取られたかたちです。 「へエ、何んですそれは? あつしの知らない大變なことてえのは?」 彌造をほぐすと、左に曲つた髷の刷毛先を直して、八五郎は上がり框に腰をおろしました。 「八さん騙されちやいけませんよ。朝つから八さんが來たら、うんと脅かしてやるんだつて、手ぐすね引いて待つてゐたんですよ。どうせつまらないことに決つてゐるんですから」 お勝手から出て來た平次の戀女房のお靜は、濡れた手を拭き
野村胡堂
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