野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、あツしもいよ/\來年は三十ですね」 錢形平次の子分、愛稱ガラツ八こと八五郎は、つく/″\こんなことを言つて、深刻な顏をするのでした。 「馬鹿だなア、松が取れたばかりぢやないか。そんなのは年の暮に出て來る臺詞だよ」 平次は相變らずの調子で、相手になつてやりながら、この男のトボケた口から、江戸八百八町に起つた――あるひは起りつゝある、もろ/\の事件の匂ひを嗅ぎ出すのです。 「こちとらは、大したお濕りがないから、暮も正月も氣が變りませんよ。これでうんと借金でもあると、暮は暮らしく、正月は正月らしい心持になるんだが――」 「相變らず間拔けな話だなア、どこの世界に八五郎に金などを貸すお茶人があるものか」 「有難い仕合せで。正月らしい心持にもならないかはり、首を縊る心配もないわけで」 「ところで、來年三十になつたら、どんなことになるんだ」 平次は話の捻を戻しました。 「來年は三十、さ來年は三十一でせう」 「不思議なことに人間は一つづつ年を取るよ」 「三十に手が屆かうといふのに、女房になり手のないのは心細いぢやありませんか」 ようやく八五郎は結論に辿りつきました。さう言つてなんがい顎を撫で廻
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