野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、折入つてお願ひがあるんですが」 ガラツ八の八五郎は、柄にもなく膝小僧を揃へて、斯う肩を下げ乍ら、小笠原流の貧乏搖ぎをやつて見せるのでした。 「心得てゐるよ、言ひわけに及ぶものか、その代りたんとは無えが」 錢形平次は、後ろ斜めに、障子の隙間からお勝手を覗いて、其處で晩の仕度をしてゐる女房のお靜に、何やら合圖をするのです。 それを見ると、お靜は心得たもので、帶の間から財布を拔いて、そつと平次の方へ滑らせました。親分子分の間でも、切出し憎いことを切出した八五郎に、少しでも恥を掻かせまいとする、それは貧乏馴れのした、無言劇の一と齣だつたのです。 「冗談ぢやありませんよ、親分」 八五郎は膝の上へ置かれた、女物の財布を見ると、膽をつぶして二つの掌を振りました。八つ手の葉つぱのやうな大きい手が、互ひ違ひに動いて、くつろげた胸毛のあたりに、秋風を吹き起さうといふ素晴らしいジエスチユアです。 「本當に冗談ほどしか入つちやゐないよ、遠慮することは無い、取つて置きなよ」 「あつしはね、親分、お小遣が欲しくて來たわけぢやありませんよ、憚り乍ら金なんざ――小判といふものを、馬に喰はせるほど持つてゐますよ
野村胡堂
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