野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「妙なことを頼まれましたよ、親分」 ガラッ八の八五郎、明神下の平次の家へ、手で格子戸を開けて――これは滅多にないことで、大概は足で開けるのですが――ニヤリニヤリと入って来ました。 十月の素袷、平手で水っ洟を撫で上げながら、突っかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少し蝮にはなっているものの、十手を後ろ腰に、刷毛先が乾の方を向いて、とにもかくにも、馬鹿な威勢です。 「顎の紐を少し締めろよ、馬鹿馬鹿しい」 口小言をいいながらも、平次は座布団を引寄せて、八五郎のために座を作ってやるのでした。 「でも、若い娘に忍んで来てくれと頼まれたのは、あっしも生れて初めてで」 八五郎はこう言って、顎を撫でたり、襟を掻き合せたりするのです。 「願ったり叶ったりじゃないか、相手は誰だ」 「親分も知っていなさるでしょう。相手は本郷二丁目の平松屋源左衛門の義理の娘ですが、まずその親父のことから話さなきゃわかりません」 「知っているとも。昔は武家だったそうだな、松平という祖先の姓を名乗っては、相済まないというので、松平を引っくり返して平松屋は、義理堅いようなふざけた話だ」 「その平松屋源左衛門というのは、本郷一番の
野村胡堂
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