野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「親分、變なことを聽きましたがね」 ガラツ八の八五郎は、薫風に鼻をふくらませて、明神下の平次の家の、庭先から顎を出しました。いとも長閑な晝下りの一齣。 「お前の耳は不思議な耳だよ、よくさう變つたことを聽き出せるものだ。俺の方は尋常なことばかりさ、蒔いた種は生えるし、借りた金は返さなきやならねえし」 平次は氣のない返事をしながら、泥鉢に出揃つた、朝顏の芽をいつくしんでゐるのでした。 「あつしの方はまた、變つたことばかり、手紙をやつてもあの娘は返事をくれないし、借金は溜つても、拂ふ氣になれないし」 「あんな野郎だ、――ところで、その變つたことと言ふのは何んだえ」 平次は手の泥を拂つて、椽側に腰をおろし腹ん這ひになつて、煙草盆を引寄せるのです。 「こいつは變つてますよ。影法師に憑かれた話なんですが――」 「影法師に憑かれた?」 成程それは話が變り過ぎてゐます。 「四ツ谷の與吉が、淺草へ行く道序に、半日無駄話をして歸りましたが、その時の笑ひ話ですよ」 江戸中にまかれた何百人の岡つ引は、八五郎に好意を持たないものはなく、わけても腕に自信のない者は自分の繩張り内に起つた事件の匂ひを、八五郎の耳に入
野村胡堂
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