野村胡堂
野村胡堂 · 日本語
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野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
錢形の平次は、椽側の日向に座布團を持出して、その上に大胡坐をかくと、女房のお靜は後ろに廻つて、片襷をしたまゝ、月代を剃つて居りました。 八五郎は少し離れて、頬杖を突いて足を投げ出し、お先煙草を立てツ續けに燻して、これも引つきりなしに、無駄の掛け合ひをして居ります。 「お願ひだから八五郎さん、その冗談は止して下さいな。今丁度髯にかゝつてゐるんですもの、吹き出すたびに、危なくて危なくて――」 お靜は困じ果てて、剃刀を持つた白いかひなをあげました。不斷着の粗末な身扮、八つ口の赤いのだけが眼に沁みますが、身體にも若さと優しさがあつて、何んとも言へない良いポーズです。 「剃刀を使つてるものを笑わせるのは危ないぢやないか。一つ間違へば、下手人はお前だ」 平次は扇面型になつた、毛受けを下に置いて、方圖もなく冗談を言ふ八五郎をたしなめました。 「私は不器用で、剃刀はそりや下手なんだから」 お靜は自分のせゐにして、それとはなしに八五郎を庇つてやるのです。 「不器用は俺さ。貧乏人は、自分で月代をするくらゐの修業をするのもたしなみだが、知つての通り、俺は、髯を剃つても無事ぢや濟まないから、女房を仕込んでゐる
野村胡堂
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