蔵原伸二郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
風の旅びとがこつそり尾根道を通る ここはしずかな山の斜面 一匹の雌きじが 卵を抱いている 青いハンカチのように 夕明かりの中を よぎる蝶 谷間をくだる せせらぎの音 ふきやもぐさの匂いが 天に匂う (どこからも鉄砲の音などきこえはしない) 一番高い山の端に陽がおちる 乳いろのもやが谷々からのぼつてくる やがて、うす化粧した娘のような新月が もやの中からゆつくりと顔を出す ――今晩は、きじのおばさん―― 平和な時間がすぎてゆく きじの腹の下で最初の卵がかえる 月かげにぬれてひよこがよろめく 親きじがやさしくそれをひきよせる (どこからも鉄砲の音などきこえはしない)
蔵原伸二郎
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